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小さなSIベンチャーで出版事業を立ち上げた話

 広報マーケティングAdvent Calendar 2016の、9日目の記事です。

www.adventar.org

広報と記者を両方経験している自分にとって、以下の記事をとても面白く読み(特に記事チェックのあたりのやり取りは、今編集の仕事が多いので、「それホントわかるわー」という感じ…)、そのなかでアドベントカレンダーの執筆者が足りていないとのことでしたので、思い付きで執筆をしてみました。

bloggingfrom.tv

簡単に自分の経歴を述べておくと、

株式会社アスキー(書籍営業)→株式会社商業界(流通小売業専門誌の編集記者)→USP研究所(広報・マーケティング)→フリー(編集・広報・マーケ)→株式会社プレーンテキスト設立(編集・システム)

と、流通小売業とIT関連のお仕事中心に携わっております。

最近はIT&ビジネス関連コンテンツ制作(企画・編集・執筆)、広報・マーケティング支援ならびにイーラーニング運用やシステム開発のお仕事が中心です。執筆・編集業は、流通小売業、情報システム、Makerムーブメント、スタートアップ関連の記事を中心に書いております。(なお、現在は産休中で、お仕事への本格復帰は2017年春の予定です)

見よう見まねで出版事業をスタートすることに

ここでは、USP研究所に勤めていたときに、出版事業を立ち上げたきっかけとなった書籍、「プログラミング言語AWK」復刊の流れをご紹介したいと思います。 

プログラミング言語AWK

プログラミング言語AWK

  • 作者: A.V.エイホ,P.J.ワインバーガー,B.W.カーニハン,足立高徳
  • 出版社/メーカー: USP研究所
  • 発売日: 2010/01/01
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
  • クリック: 1回
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この本はプログラミング言語AWK」の解説書です。AWKを開発したエイホ、ワインバーガー、カーニハンの3名による、AWKというプログラミング言語の源流に触れられる本ということができます。

何回か絶版と復刊を繰り返している本作が、再び絶版状態になっているになっているという話を聞きつけた私は、当時マーケティングを担当していたUSP研究所の方針である「テキスト処理だけでシステムの開発をすることができる」ということを示すよい題材と考え、復刊に挑戦することにしました。

 今でこそ同社はシェル芸の総本山(?)として、お名前を知ってくださっている方も増えてきているようですが、私が広報として仕事をしていた2008年~2011年ごろは名もなき小さなSIre。知名度を上げ、同時に仲間を増やすことはマーケティング担当者にとっての大きな課題となっていました。SIのビジネスとしての側面を支援するためのセミナーや展示会出展を行うだけでなく、コミュニティやアカデミズムとの縁を作っていこうと、出版事業を立ち上げるという戦略を選択したのです。

私は新卒でコンピュータ書の流通に関わり、その後流通小売業系の出版社で雑誌編集記者をした経験はありましたが、PC書を作り、流通に載せるのははじめてのことです。

そんな流れで、何もかも見よう見まねで出版事業を立ち上げることになったのでした。

はじまりはダメ元で送った一通のメール

まずは原著の版元である米国ピアソン・エデュケーション社に「『プログラミング言語AWK』を復刊したい。印税はコレコレでどう?よければサイン済みの契約書を送って」というメールを送りました。これは本当にダメ元という気持ちだったことを覚えています。海を越えた名もない会社のオファーに応じてくれるとは到底思えませんでしたから。ところが数週間後、これに返信が届いたのです。英文メールなんて書きなれていなかったので、当時同僚だった上田先生(@ryuichiueda)にメールの書き方を添削してもらった記憶があります。契約書にサインをしたものを返送したところ、数週間後、先方から原著が数冊送られてきて、契約が無事締結できたということを知りました。

その後、翻訳者の足立さんの連絡先を探してアクセス。印税の条件などを相談させていただき、契約の運びとなりました。

本の体裁は全部自作

コンテンツが整いましたので、今度は印刷された本を作らねばなりません。

まず印刷所は知人の紹介でN印刷を選定。印刷部数が100部単位と非常に少ないため、原価がどうしても高くなってしまい、値付けには苦労しました。1部3,800円と安くはない価格でしたが、「自社のマーケティングのための出版事業ではあるが、持ち出しにはしない」という方針で値付けをしたように記憶しています。

デザイナーさんにデザインを依頼する予算もありませんでしたから、表紙は私がIllustratorで作成しました。USP研究所では会社の印刷物の色合いを「白地に黒の文字」で統一していたこともあり、質感がある紙に黒一色で印刷することに決め、その後の出版物にも踏襲することになりました。

ただ、紙とインクの相性が悪かったのか、初回ロットはカバーを少し強めに触るとインクが落ちて表紙が汚れてしまい、カバーを印刷しなおすことになってしまうというトラブルにも見舞われました…。

今思い返せば、デザインという部分はブランディングの大きな肝となる部分なので、きちんとプロの方にお願いするべきでした。とはいえ当時はとにかくコストをかけられなかったので、仕方がなかったとも思います。

地道にリリース配布で記事化を目指したプロモーション

プロモーションに関しては、アスキー時代の先輩に添削していただいた上でプレスリリースをメディアさん宛に送付し、記事化していただきました。

codezine.jp

news.mynavi.jp

また、今やオムニチャネルの伝道師のようになっている大先輩のHさんのご縁で復刊ドットコムさんをご紹介いただき、同サイトで復刊キャンペーンを打っていただいたり…たくさんの方に支えていただいたて、少し話題にもすることができました。

最大の難所は流通

できあがった書籍をどのように流通させるかは意思決定が難しかった点でした。書店流通をすべく取次に口座を作ろうと試行錯誤もしたのですが、こちらはあえなく敗退。結局自社のWEBから受注とAmazonのe託での販売を行うことにしました。

ちなみに、取次に口座を作る一連の流れについては、以下の書籍がとても参考になります。今となっては直販のほうがコストがかからず楽なのかもしれませんが、今でも自社の出版物が書店に陳列されることには大きな価値があると思います。そのような希望がある方は、一読されるとよいかもしれません。

日本でいちばん小さな出版社

日本でいちばん小さな出版社

 

 USP出版の書籍は、今では丸善さんや八重洲ブックセンターさんなどの店頭でも販売されているようです。たまに自分が作った本が陳列されているのを店頭で見かけると、とてもうれしい気持ちになります。

社内の業務整備も忘れずに

忘れがちなのが、社内の業務整備です。売上をどう経理処理するのか、経理との調整も必要だったり、受注から発送のフローも作る必要があります。在庫管理のルールを決めたり、決算時には棚卸も必要です。印税計算、報告書の作成、出版契約の更新…当初は想定していなかった業務がどんどん生まれてきます。

自分が作って売るとなると、どうしてもバックヤードの仕事は忘れてしまいがちなのですが、私は小さいながらも出版事業全体を設計することができる機会に恵まれ、一つ一つ課題を解決しながら進めることができ、とてもよい経験になりました。

こう振り返ってみると、書籍のコンテンツの発見から、プロモーション、流通まで全部を少しずつ触ってみることができた面白い仕事でした。

この「プログラミング言語AWK」がきっかけになり、USP研究所では出版事業をスタートすることができました。その後私が担当となって刊行した、「ユニケージ原論」「伽藍とバザール」「シェルスクリプトシンプルレシピ」「 Cプログラム高速化研究班」それぞれに発行に至るまでは紆余曲折がありましたが、今となってはよい思い出です。(裏話のご用命は、お気軽にご連絡ください・笑)

出版事業と並行した広報施策として、TechLIONというイベント、USP友の会というコミュニティの運営、そして、USP MAGAZINE(現:シェルスクリプトマガジン)の立ち上げもやりました。すべてが6年たった今も継続されているのは、立ち上げ人として冥利に尽きます。

techlion.jp

何かをゼロから立ち上げるのは、とてつもない熱量がいることで、あれは若かったからできたのかもしれませんが、また何か機会があれば、事業や企画の立ち上げをやってみるのも楽しそうに思います。

まとまりませんが、こんなところで。